むかでのあしおと |
むかでの跫音 |
冒頭文
1 福知山から三田(さんだ)行に乗り換えた時には、もう汽車の中にまで夕闇が迫っていた。 園部の新生寺(しんしょうじ)の住職——それは亡夫の伯父なのだ——が急死したという電報を受取ると直ぐ東京から馳けつけて来て、この三日間というもの、通夜だ、葬式だ、とおちおち眠る暇もなかった。亡夫側の親類や知人ばかり集っている中で、気兼しながら暮したので、日数は僅だが、すっかり疲労(つか)れてし
文字遣い
新字新仮名
初出
「殺人流線型」柳香書院、1935(昭和10)年
底本
- 大倉燁子探偵小説選
- 論創社
- 2011(平成23)年4月30日