びじんたかじょう
美人鷹匠

冒頭文

九年前の出来事 小夜子は夫松波博士の出勤を見送って茶の間に戻ると、一通の封書を受取った。裏にはただ牛込区富久町とだけ書いてある。職業柄、こうした差出人の手紙は決して珍らしいことではないが、これは優しい女文字でしかも名前がない、彼女は好奇心にひかされて主人宛の親展書であるにかかわらず、開封した。 「旦那様!」という書き出しにまず眉を曇らせ、キッとなって読み始めた。 「あなた様は突然

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人倶楽部 一八巻九号」1937(昭和12年)7月増刊号

底本

  • 大倉燁子探偵小説選
  • 論創社
  • 2011(平成23)年4月30日