じょうき
情鬼

冒頭文

1 「小田切大使が自殺しましたよ」 夕刊をひろげると殆ど同時にS夫人が云った。その瞬間、私の頭の中をすうッと掠(かす)めたある影——、それは宮本夫人の妖艶な姿であった。 小田切大使の自殺に宮本夫人を引張り出すのはちょっと可笑(おか)しいが、私の頭の隅に、二十年前の記憶が今なお残っていたからであろう。 その当時は小田切大使も宮本夫人もまだ若かった。少壮外交官の彼と彼女

文字遣い

新字新仮名

初出

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

底本

  • 大倉燁子探偵小説選
  • 論創社
  • 2011(平成23)年4月30日