しんれいのいだくきんかい
心霊の抱く金塊

冒頭文

(上) ツイ二三日前のこと、私達は赤い丸卓子を囲んで昂奮に汗ばんだ顔を並べ、心霊学者深井博士の話を、熱心に聞いていた。もう秋だというのに恐ろしく蒸し暑い晩だ。 「金塊はたしかにあった。この眼で見てきたのだから間違いはない、価格はまず五億万円ほどだ」 と云って、口を真一文字にきゅッと結び、皆を見廻した。隣席にいた人は、その時、思わず低い呻きのような歎声をもらした。    

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京朝日新聞」1935(昭和10)年9月23~24日

底本

  • 大倉燁子探偵小説選
  • 論創社
  • 2011(平成23)年4月30日