きみつのみわく
機密の魅惑

冒頭文

1 「ある夫人——それは私の旧友なのですが——からこうした手紙を度々受取らなかったら、恐らくこの事件には携らなかったろうと思います」 S夫人は一束の手紙の中から一つを抜き出して渡してくれた。それは藤色のレター紙に細かく書かれたものであった。 S夫人! 私はもうすっかり疲れてしまいました。 こんどの任地では徹頭徹尾失敗です。夫の愛は彼女に奪われ、在留民からは

文字遣い

新字新仮名

初出

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

底本

  • 大倉燁子探偵小説選
  • 論創社
  • 2011(平成23)年4月30日