ばらのおんな |
薔薇の女 |
冒頭文
馬車はヴェラクルスへ向けて疾(はし)っていた。お客は私と商人のパリロ氏と牧場主のラメツ氏と医師のフェリラ氏とそしてその他に全く得体の知れぬ二人連れの男女が乗っていた。男は鍔広(つばひろ)帽子を眼深にかぶり上衣の襟を深く立てて、女は長い睫毛の真黒な眼だけを残してすっぽりと被衣(かっぱ)を被っている。二人共如何にも世を忍ぶ風情である。女の耳のあたりには素晴らしく赤い薔薇の花が一輪留めてあった。
文字遣い
新字新仮名
初出
「時事新報」1927(昭和2)年4月17日
底本
- 時事新報
- 時事新報社
- 1927(昭和2)年4月17日