なつむきのいちや |
夏向きの一夜 |
冒頭文
争えないもので、顔までがいつのまにやらそういう顔つきになってしまったのであろう。夜は云うまでもないが、昼間でも、街を歩いていると、ぼくはよくおまわりさんから誰何されたのである。それはしかし、顔つきばかりのことではなく風体からしてそもそもぼく自身の生活を反映しているものなのであって、当時の流行語を借りて云えば、所謂、るんぺんと称されているところのもので、ぼくは路傍で暮らしているような状態にあったから
文字遣い
新字新仮名
初出
「東京労働新聞」1950(昭和25)年8月10日
底本
- 山之口貘詩文集
- 講談社文芸文庫、講談社
- 1999(平成11)年5月10日