のじゅく
野宿

冒頭文

あとになって、きいたことなのであるが、ずっと前にそこに住んでいたうちの娘さんが、毒をのんで便所のなかで死んでいたという噂のある家なのである。近所のおかみさんの話によると、この家に引っ越してくる人は、みんな、四五日も居たか居ないかのうちに、すぐにまたどこかへ引っ越して行くんだそうで、 「お宅が一番ながいんですよ」と云った。云われてみれば、この家にぼくらが来てから、もう半年も過ぎようとしていたの

文字遣い

新字新仮名

初出

「群像」講談社、1950(昭和25)年9月号

底本

  • 山之口貘詩文集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年5月10日