やしのき |
椰子の樹 |
冒頭文
われらが故里の國の樹木は、すべて人間のやうに直立してゐて、しかも不動である。其根を土に突込んで、腕を廣げたままでゐる。ここはさうでない。靈木榕樹(あかのき)は單獨に聳えたつのではなく、多くの絲を吊下げて、地の胸を撫探(なでさが)し、宛も自ら築きたつ殿堂のやうだ。しかしこれから椰子の樹のことを語らう。 この樹には枝が無い、幹の頂上に椰子の葉の房を翳(かざ)してゐる。 椰子の葉は勝
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「芸文 四ノ八」1913(大正2)年8月
底本
- 上田敏全訳詩集
- 岩波文庫、岩波書店
- 1962(昭和37)年12月16日