うこんそううり |
欝金草売 |
冒頭文
花のなかなる欝金草は鳥のなかなる孔雀の如し。かれに香(にほひ)無くこれに歌無し。かれは其袍(そのうはぎ)を、これは其尾を矜(ほこ)る。 「珍華園」 あたりはしんとしてゐる。博士ホイルテンの指の下に羊皮紙の擦れる音ばかりだ。博士は彩色の飾文字(かざりもじ)を散らした聖典を見つめてゐて、たまに眼を放てば、うつすり曇る水盤の中に泳ぐ二尾(ひき)の魚の金(きん)と紅(あか)とを眺めるのみ
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「三高仏蘭西協会雑誌」1915(大正4)年3月
底本
- 上田敏全訳詩集
- 岩波文庫、岩波書店
- 1962(昭和37)年12月16日