むぎわらぼうし |
麦藁帽子 |
冒頭文
私は十五だつた。そしてお前は十三だつた。 私はお前の兄たちと、苜蓿(うまごやし)の白い花の密生した原つぱで、ベエスボオルの練習をしてゐた。お前は、その小さな弟と一しよに、遠くの方で、私たちの練習を見てゐた。その白い花を摘んでは、それで花環をつくりながら。飛球があがる。私は一生懸命に走る。球がグローブに觸る。足が滑る。私の體がもんどり打つて、原つぱから、田圃の中へ墜落する。私はどぶ鼠になる
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「日本國民 第一巻第五号」日本國民社、1932(昭和7)年9月号
底本
- 堀辰雄作品集第一卷
- 筑摩書房
- 1982(昭和57)年5月28日