だんぺん
断片

冒頭文

私には群集が絶対に必要であつた。徐々に来る私の肉体の破壊を賭けても、必要以上の群集を喚び起すことが必要であつた。さういふ日々の禁厭が私の上に立てる音は不吉であつた。 私は幾日も悲しい夢を見つゞけながら街を歩いた。濃い群集は常に私の頭の上で蠢めいてゐた。時々、飾窓の中にある駝鳥の羽根附のボンネツトや、洋服屋の店先にせり出してゐる、髪の毛や睫毛を植ゑられた蝋人形や、人間の手で造られてはならな

文字遣い

新字旧仮名

初出

「山繭 第六号」1925(大正14)年5月

底本

  • 富永太郎詩集
  • 現代詩文庫、思潮社
  • 1975(昭和50)年7月10日