ちょうじゅうはくせいじょ いちほうこくしょ
鳥獣剥製所 一報告書

冒頭文

私はその建物を、圧しつけるやうな午後の雪空の下にしか見たことがない。また、私がそれに近づくのは、あらゆる追憶が、それの齎す嫌悪を以て、私の肉体を飽和してしまつたときに限つてゐた。私は褐色の唾液を満載して自分の部屋を見棄てる、どこへ行くのかをも知らずに…… 煤けた板壁に、痴呆のやうな口を開いた硝子窓。空のどこから落ちて来るのか知ることの出来ぬ光が、安硝子の雲形の歪(ゆが)みの上にたゆたひ、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「山繭 第三号」1925(大正14)年2月

底本

  • 富永太郎詩集
  • 現代詩文庫、思潮社
  • 1975(昭和50)年7月10日