むだい きょうと とみくらじろうに |
無題 京都 富倉次郎に |
冒頭文
おまへの歯は よく切れるさうな 山々の皮膚が あんなに赤く 夕陽(ゆふひ)で爛らされた鐃鉢(ねうばち)を 焦々して 摺り合せてゐる おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ おまへの顎が、薄明(うすあかり)を食べてゐる橋の下で 友禅染を晒すのだとかいふ黝(くろ)い水が 産卵を終へた蜉蝣(かげろふ)の羽根を滲ませる おまへはもう 暗い部屋へ帰つておくれ 色褪せた造りものの おまへの四肢
文字遣い
新字旧仮名
初出
「山繭 第四号」1925(大正14)年3月
底本
- 富永太郎詩集
- 現代詩文庫、思潮社
- 1975(昭和50)年7月10日