みくにやまとなえばやま |
三国山と苗場山 |
冒頭文
大正二、三年の頃、東京から見える山のスケッチを作る為に、強い北西の風が吹く晴れた冬の日には、よく愛宕山の塔や浅草の凌雲閣に上って、遠い雪の山の姿に見入りながら、新しい印象や古い記憶を辿って、山の持つ個性から其(その)何山であるかを探し出すのが楽しみであった。大井川奥の聖(ひじり)岳などは愛宕の塔から眺めると、三峠(みつとうげ)山と朝日山とが石老山の上で裾を交えている其たるみの間に置かれた一握の雪か
文字遣い
新字新仮名
初出
「婦人の友」1931(昭和6)年8月
底本
- 山の憶い出 上
- 平凡社ライブラリー、平凡社
- 1999(平成11)年6月15日