したをかみきったおんな またはすてひめ |
舌を噛み切った女 またはすて姫 |
冒頭文
京にのぼる供は二十人くらい、虫の垂衣(たれぎぬ)で蔽(おお)うた馬上の女のすがたは、遠目にも朝涼(あさすず)の中で清艶(せいえん)を極めたものであった。袴野(はかまの)ノ麿(まろ)を真中に十人の荒くれ男が峠路(とうげみち)にかかる供ぞろいの一行を、しんとして展望していた。離れ山の洞窟のこの荒くれ男から、少し隔(はな)れた切株の上に腰をおろしたわかい女は、なまなましい脚を組んで、やはり山麓をゆく一行
文字遣い
新字新仮名
初出
「新潮」1956(昭和31)年1月号
底本
- 犀星王朝小品集
- 岩波文庫、岩波書店
- 1984(昭和59)年3月16日