のにふすもの |
野に臥す者 |
冒頭文
経之(つねゆき)の母御(ははご)は朝のあいさつを交したあとに、ふしぎそうな面持でいった。 「ゆうべそなたは庭をわたって行かれたように覚えるが。」 「いえ、さようなことはございませぬ。誰かをご覧(ろう)じましたか。」 それは確かに人かげを見うけ申した。月がなくただ星あかりでしか見えない池の裏手の、萩芒(はぎすすき)の枯れ叢(むら)の間をぬけて行った者がいた。かぶり物をしていたから顔はよ
文字遣い
新字新仮名
初出
「小説公園」1951(昭和26)年12月号
底本
- 犀星王朝小品集
- 岩波文庫、岩波書店
- 1984(昭和59)年3月16日