よつやかいだんいせつ
四谷怪談異説

冒頭文

四谷怪談といえば何人もおなじみであるが、扨(さて)その実録は伝わっていない。四谷左門町に住んでいた田宮伊右衛門という侍がその妻のお岩を虐待して死に至らしめ、その亡魂が祟りをなして田宮の家は遂にほろびたというのが、先ず普通一般に信じられている伝説である。しかもそんなたぐいの話は支那に沢山あるから、お岩のことも矢はり支那から輸入されたものではないかと思われるが、現に江戸時代には左門町にお岩稲荷があり、

文字遣い

新字新仮名

初出

「演劇画報」1926(大正14)年5月

底本

  • 綺堂随筆 江戸の思い出
  • 河出文庫、河出書房新社
  • 2002(平成14)年10月20日