横浜(よこはま)。 日華洋行(にっかようこう)の主人陳彩(ちんさい)は、机に背広の両肘(りょうひじ)を凭(もた)せて、火の消えた葉巻(はまき)を啣(くわ)えたまま、今日も堆(うずたか)い商用書類に、繁忙な眼を曝(さら)していた。 更紗(さらさ)の窓掛けを垂れた部屋の内には、不相変(あいかわらず)残暑の寂寞(せきばく)が、息苦しいくらい支配していた。その寂寞を破るものは、ニスの匀