かいかのおっと |
開化の良人 |
冒頭文
いつぞや上野(うえの)の博物館で、明治初期の文明に関する展覧会が開かれていた時の事である。ある曇った日の午後、私(わたくし)はその展覧会の各室を一々叮嚀(ていねい)に見て歩いて、ようやく当時の版画(はんが)が陳列されている、最後の一室へはいった時、そこの硝子戸棚(ガラスとだな)の前へ立って、古ぼけた何枚かの銅版画を眺めている一人の紳士(しんし)が眼にはいった。紳士は背のすらっとした、どこか花車(き
文字遣い
新字新仮名
初出
「中外」1919(大正8)年2月
底本
- 芥川龍之介全集2
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1986(昭和61)年10月28日