じいさんばあさん |
ぢいさんばあさん |
冒頭文
文化六年の春が暮れて行く頃であつた。麻布龍土町(あざぶりゆうどちやう)の、今歩兵第三聯隊の兵營になつてゐる地所の南隣で、三河國奧殿の領主松平左七郎乘羨(のりのぶ)と云ふ大名の邸の中に、大工が這入つて小さい明家(あきや)を修復してゐる。近所のものが誰の住まひになるのだと云つて聞けば、松平の家中の士(さむらひ)で、宮重久右衞門と云ふ人が隱居所を拵へるのだと云ふことである。なる程宮重の家の離座敷と云つて
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「新小説」1915(大正4)年9月
底本
- 日本現代文學全集 7 森鴎外集
- 講談社
- 1962(昭和37)年1月19日