ふたりのとも |
二人の友 |
冒頭文
私は豊前(ぶぜん)の小倉(こくら)に足掛四年いた。その初(はじめ)の年の十月であった。六月の霖雨(りんう)の最中に来て借りた鍛冶町(かじまち)の家で、私は寂しく夏を越したが、まだその夏のなごりがどこやらに残っていて、暖い日が続いた。毎日通う役所から四時過ぎに帰って、十畳ばかりの間(ま)にすわっていると、家主(いえぬし)の飼う蜜蜂が折々軒のあたりを飛んで行く。二台の人力車がらくに行き違うだけの道を隔
文字遣い
新字新仮名
初出
「アルス」1915(大正4)年6月
底本
- 新潮日本文学1 森鴎外集
- 新潮社
- 1971(昭和46)年8月12日