ひゃくものがたり
百物語

冒頭文

何か事情があって、川開きが暑中を過ぎた後に延びた年の当日であったかと思う。余程年も立っているので、記憶が稍(やや)おぼろげになってはいるが又却(かえっ)てそれが為(た)めに、或る廉々(かどかど)がアクサンチュエエせられて、翳(かす)んだ、濁った、しかも強い色に彩(いろど)られて、古びた想像のしまってある、僕の脳髄の物置の隅(すみ)に転(ころ)がっている。 勿論(もちろん)生れて始ての事で

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1911(明治44)年10月

底本

  • 山椒大夫・高瀬舟
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1968(昭和43)年5月30日、1985(昭和60)年6月10日41刷改版