やすいふじん
安井夫人

冒頭文

「仲平(ちゅうへい)さんはえらくなりなさるだろう」という評判と同時に、「仲平さんは不男(ぶおとこ)だ」という蔭言(かげこと)が、清武(きよたけ)一郷(ごう)に伝えられている。 仲平の父は日向国(ひゅうがのくに)宮崎郡清武村に二段(たん)八畝(せ)ほどの宅地があって、そこに三棟の家を建てて住んでいる。財産としては、宅地を少し離れた所に田畑を持っていて、年来家で漢学を人の子弟に教えるかたわら、耕

文字遣い

新字新仮名

初出

「太陽」1914(大正3)年4月

底本

  • 日本の文学 3 森鴎外(二)
  • 中央公論社
  • 1972(昭和47)年10月20日