一 凍てついた夜の底を白い風が白く走り、雨戸を敲くのは寒さの音である。厠に立つと、窓硝子に庭の木の枝の影が激しく揺れ、師走の風であった。 そんな風の中を時代遅れの防空頭巾を被って訪れて来た客も、頭巾を脱げば師走の顔であった。青白い浮腫(むくみ)がむくみ、黝(あおぐろ)い隈(くま)が周囲(まわり)に目立つ充血した眼を不安そうにしょぼつかせて、「ちょっと現下の世相を……」語りに来た