けさともりとお
袈裟と盛遠

冒頭文

上 夜、盛遠(もりとお)が築土(ついじ)の外で、月魄(つきしろ)を眺めながら、落葉(おちば)を踏んで物思いに耽っている。     その独白 「もう月の出だな。いつもは月が出るのを待ちかねる己(おれ)も、今日ばかりは明くなるのがそら恐しい。今までの己が一夜の中(うち)に失われて、明日(あす)からは人殺になり果てるのだと思うと、こうしていても、体が震えて来る。この両の手が血で赤くなった時

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1918(大正7)年4月

底本

  • 芥川龍之介全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年10月28日