ぐびじんそう |
虞美人草 |
冒頭文
一 「随分遠いね。元来(がんらい)どこから登るのだ」 と一人(ひとり)が手巾(ハンケチ)で額(ひたい)を拭きながら立ち留(どま)った。 「どこか己(おれ)にも判然せんがね。どこから登ったって、同じ事だ。山はあすこに見えているんだから」 と顔も体躯(からだ)も四角に出来上った男が無雑作(むぞうさ)に答えた。 反(そり)を打った中折れの茶の廂(ひさし)の下から、深き眉(まゆ)を動かしなが
文字遣い
新字新仮名
初出
「朝日新聞」1907(明治40)年6~10月
底本
- 夏目漱石全集4
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1988(昭和63)年1月26日