えいぞうのし |
栄蔵の死 |
冒頭文
(一) 朝から、おぼつかない日差しがドンヨリ障子にまどろんで居る様な日である。 何でも、彼んでも、灰色に見える様に陰気な、哀れっぽい部屋の中にお君は、たった独りぽっちで寝て居る。 白粉と安油の臭が、プーンとする薄い夜着に、持てあますほど、けったるい体をくるんで、寒そうに出した指先に反古を巻いて、小鼻から生え際のあたりをこすったり、平手で顔中を撫で廻したりして居たけれ共一人
文字遣い
新字新仮名
初出
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
底本
- 宮本百合子全集 第二十九巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年12月25日初版