ついおく
追憶

冒頭文

二日も降り続いて居た雨が漸(ようよ)う止んで、時候の暑さが又ソロソロと這い出して来た様な日である。 まだ乾き切らない湿気と鈍い日差しが皆の心も体も懶(だ)るくさせて、天気に感じ易い私は非常に不調和な気分になって居た。 一日中書斎に座って、呆んやり立木の姿や有難い本の列などを眺めながら、周囲の沈んだ静けさと、物懶(ものう)さに連れて、いつとはなし今自分の座って居る丁度此の処に彼の

文字遣い

新字新仮名

初出

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

底本

  • 宮本百合子全集 第二十九巻
  • 新日本出版社
  • 1981(昭和56)年12月25日初版