あめがふっている |
雨が降って居る |
冒頭文
細い雨足で雨が降って居る。 薄暗い書斎の机の前にいつもの様に座って、私は先((ママ))ぐ目の前にある楓の何とも云えず美くしい姿を見とれて居る。 実に美くしい。 非常に肉の薄い細く分れた若葉の集り。 一つ一つの葉が皆薄小豆色をして居て、ホッサリと、たわむ様にかたまった表面には、雨に濡れた鈍銀色と淡い淡い紫が漂って居る。 細い葉先に漸々とまって居る小さ
文字遣い
新字新仮名
初出
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
底本
- 宮本百合子全集 第二十九巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年12月25日初版