ひとすじのなわ |
一条の縄 |
冒頭文
月の冴えた十一月の或る夜である。 二羽の鴨が、田の畔をたどりたどり餌を漁って居る。 収獲を終った水田の広い面には、茶筅の様な稲の切り株がゾクゾク並んで、乾き切って凍て付いた所々には、深い亀裂破れが出来て居る。 小路は霜で白く光り、寒げな靄に立ちこめられた彼方には、遠く高い山並みや木立の影が夢の様に浮き上って、人家の灯かげがところ、どころにチラチラと、小さく暖かそうに瞬
文字遣い
新字新仮名
初出
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
底本
- 宮本百合子全集 第二十九巻
- 新日本出版社
- 1981(昭和56)年12月25日初版