こおりやのはた |
氷屋の旗 |
冒頭文
親しい人の顔が、時として、凝乎(ぢつ)と見てゐる間(うち)に見る見る肖(に)ても肖つかぬ顔——顔を組立ててゐる線と線とが離れ〳〵になつた様な、唯不釣合な醜い形に見えて来る事がある。それと同じ様に、自分の周囲の総ての関係が、亦時として何の脈絡も無い、唯浅猿(あさま)しく厭はしい姿に見える。——恁(か)うした不愉快な感じに襲はれる毎に、私は何の理由もなき怒り——何処へも持つて行き処の無い怒を覚える。
文字遣い
新字旧仮名
初出
「東京毎日新聞」1909(明治42)年8月
底本
- 日本の名随筆18 夏
- 作品社
- 1984(昭和59)年4月25日