たまご

冒頭文

三太郎君は勉強に飽きて裏庭に出ました。 空には一面に白い鱗雲(うろこぐも)が漂うて、淡い日があたたかく照っておりました。その下に立ち並ぶ郊外の家々は、人の気はいもないくらいヒッソリとして、お隣りとの地境(じざかい)に一パイに咲いたコスモスまでも、花ビラ一つ動かさずに、淡い空の光りをいろんな方向に反射しておりました。 その花の蔭の黒いジメジメした土の上に初生児(あかんぼ)の頭ぐら

文字遣い

新字新仮名

初出

「猟奇」1929(昭和4)年10月

底本

  • 夢野久作全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年8月24日