まじゅつ |
魔術 |
冒頭文
ある時雨(しぐれ)の降る晩のことです。私(わたし)を乗せた人力車(じんりきしゃ)は、何度も大森界隈(おおもりかいわい)の険(けわ)しい坂を上ったり下りたりして、やっと竹藪(たけやぶ)に囲まれた、小さな西洋館の前に梶棒(かじぼう)を下しました。もう鼠色のペンキの剥(は)げかかった、狭苦しい玄関には、車夫の出した提灯(ちょうちん)の明りで見ると、印度(インド)人マティラム・ミスラと日本字で書いた、これ
文字遣い
新字新仮名
初出
「赤い鳥」1920(大正9)年1月
底本
- 芥川龍之介全集3
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1986(昭和61)年12月1日