しょじょさくついかいだん
処女作追懐談

冒頭文

私の処女作——と言えば先(ま)ず『猫』だろうが、別に追懐する程のこともないようだ。ただ偶然ああいうものが出来たので、私はそういう時機に達して居たというまでである。 というのが、もともと私には何をしなければならぬということがなかった。勿論(もちろん)生きて居るから何かしなければならぬ。する以上は、自己の存在を確実にし、此処(ここ)に個人があるということを他にも知らせねばならぬ位の了見(りょ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章世界」1908(明治41)年9月15日

底本

  • 筑摩全集類聚版 夏目漱石全集 10
  • 筑摩書房
  • 1972(昭和47)年1月10日