いずみ

冒頭文

勇士黒岩万五の帰村 一 北支の戦線から一年半ぶりで故郷の村へ帰つて来た黒岩万五は、砲兵上等兵の軍服を思ひきりよく脱いで、素ツ裸に浅黄の腹掛けといふ昔どほりの恰好になつた。今日だけは麦藁帽が見つからず、しかたがない、当節誰でもがかぶつてゐる戦闘帽の星をもぎつたのをきちんと頭にのせて出た。 なにはともあれ、立花伯爵の山荘へ挨拶に行かねばならぬ。裏の木戸は押せば開く。勝手口

文字遣い

新字旧仮名

初出

「東京朝日新聞、大阪朝日新聞」1939(昭和14)年10月7日~1940(昭和15)年3月11日

底本

  • 岸田國士全集14
  • 岩波書店
  • 1991(平成3)年4月8日