だっしゅつとかいき
脱出と回帰

冒頭文

一つの神話 日本の伝説の中で、光の美しさを描いているものでは、何といっても、手力男の命が、あの巌壁を開く時、さしはじめる光の、あの強烈な感じの右に出るものはあるまい。あの伝説、暗さへの没入、それからの回復、この構成の中に注意すべき二つの要素があると思われる。第一は、その光の源である脱出の女神が、巌壁の中でその孤独と、寂寥に堪えがたい時、金鵄(カナトミ)の命はそれを慰めんとして、弓五張を並

文字遣い

新字新仮名

初出

「思想 三二六号」1951(昭和26)年8月号

底本

  • 中井正一評論集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年6月16日