このにぎりめし |
この握りめし |
冒頭文
一 増田健次は復員すると間もなく警察官を志願し、今ではもう制服も身についた一人前の駐在さんになつていた。郷里は宮城県の田舎であるが、両親はもうなく、ずつと年の違う兄が後をついで僅かばかりの土地を耕している。彼は元来なら本籍地に勤務するはずなのを、特に思うところあつて、群馬県を撰んだ。職務がら顔見知りの少いところがよいと考えたばかりでなく、子供の頃からなんとなく上州という土地が好きであつた
文字遣い
新字新仮名
初出
「日光 第三巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
底本
- 岸田國士全集16
- 岩波書店
- 1991(平成3)年9月9日