みどりのほし |
緑の星 |
冒頭文
ヨーロッパ通ひの船が印度洋をすぎて、例の紅海にさしかかると、そこではもう、太古以来の沙漠の風が吹き、日が沈む頃には、駱駝の背越しに、モーヴ色の空がはてしなくつづくのが見える。 その時、海の旅にあきた誰れかれの眼に、きまつて妖(あや)しく映るのは、地平線のうへに、次ぎから次ぎへと湧きでる、あの星ともいへぬ星、ひとつひとつが胸飾りのやうに鮮明な、エメラルドの星のまたたきである。 深
文字遣い
新字旧仮名
初出
「スタイル読物版 第二巻第二号」1950(昭和25)年2月1日
底本
- 岸田國士全集16
- 岩波書店
- 1991(平成3)年9月9日