きおくのいたずら |
記憶のいたづら |
冒頭文
一 妻の順子が急に、 「どうも、怪しいわ。こんなに痛いはずないんですもの」 と、顔をしかめながら言ふのをきいて、鈴村博志は、今更のやうにギクリとした。 「だつて、予定は来月初めぢやないか。まだ二週間はたつぷりあるぜ」 「あたしもそのつもりだつたのよ。だから、なんにも用意なんかしてないわ。でも、病院へ行くひまあるかしら……。苦しい、とても苦しい」 さう言つたまゝ、妻の順子
文字遣い
新字旧仮名
初出
「スタイル読物版 第二巻第四号」1950(昭和25)年4月1日
底本
- 岸田國士全集16
- 岩波書店
- 1991(平成3)年9月9日