それができたら
それができたら

冒頭文

一 吾妻養狐場には、もう狐は牡牝二頭しか残つてゐない。いづれも樺太産の優秀な種狐であるが、場主の星住省吾は、これさへ適当な買ひ手があれば、手放してもよいと考へてゐる。 戦争この方、贅沢品にちがひない銀狐の毛皮はぱつたり売行がとまり、そのうへ、飼料たる生ニシンや馬肉の入手もすこぶる困難になつたので、増殖はおろか、百頭あまりもゐた狐をどう始末するかゞ頭痛の種であつた。飼料不足のため

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第四十九巻第一号」1952(昭和27)年1月1日

底本

  • 岸田國士全集18
  • 岩波書店
  • 1992(平成4)年3月9日