かみのけとはなびら
髪の毛と花びら

冒頭文

一 「もつと早く読んでいゝよ」 机の上におつかぶさるやうな姿勢で、夫は点字機を叩いてゐた。 美津子は、コタツにあたりながら、文庫版のメリメの短篇「マテオ・ファルコオネ」を、区切り区切り、調子をつけて読みあげてゐる。 結婚このかた、美津子は、かうして、夫が打ちこんでゐる仕事を助けて来た。夫の念願は、世の失明者のために点字図書館を作ることであつた。中学を終へて、高等学校

文字遣い

新字旧仮名

初出

「オール読物 第七巻第四号」1952(昭和27)年4月1日

底本

  • 岸田國士全集18
  • 岩波書店
  • 1992(平成4)年3月9日