なつかしあじきなし ごねんぶりでみるここくのしばい |
| 懐かし味気なし 五年振で見る故国の芝居 |
冒頭文
本郷座の夜の部を見て何か言へといふ注文なのですが、私はまだ厳密な意味で、他人の作品を批評し得る自信はありません。 云ふまでもなく、新しい本郷座の舞台で谷崎、菊池両氏の新作が左団次一派の俳優によつて上演されると云ふ事実は、私の好奇心を惹くに充分でした、実は、昨年の夏日本に帰つて以来、まだ一度も、芝居小屋の木戸を潜らなかつたのです。巴里(パリー)で過ごした三年あまりは、殆ど毎日、役者の顔を見
文字遣い
新字旧仮名
初出
「読売新聞」1924（大正13）年3月21日、23日
底本
- 岸田國士全集19
- 岩波書店
- 1989（平成元）年12月8日