チロルのたび
チロルの旅

冒頭文

ヴェロナ なるほど、………………………………。 これがロメオとジュリエットの墓だな。大理石の棺には蓋がない。名刺がいつぱい投げ込んである。 シェイクスピイヤの胸像が黒い蔦の葉の間からのぞいてゐる。 そこで、絵はがきを売つてゐる。 トレント こんどはダンテの立像だ。見てゐると頸が痛くなる。 オースタリイ軍に殺されたイタリイの薬剤師を憂国の志士

文字遣い

新字旧仮名

初出

「女性 第六巻第一号」1924(大正13)年7月1日

底本

  • 岸田國士全集19
  • 岩波書店
  • 1989(平成元)年12月8日