くぼたまんたろうしちょ「つりぼりにて」
久保田万太郎氏著「釣堀にて」

冒頭文

これは久保田氏の五冊目の戯曲集だといふことである。なるほど数へてみるとさうだ。なぜそれがそんなに不思議な気がするかといふと、戯曲界のこの大先輩が、今日まで劇作の筆を執りつゞけ、しかも、量にすると僅にそれくらゐの数しか書いてゐないかと思ふからである。実際、僕は、久保田氏の作品を随分昔から愛読した。その独得の詩的境地もさることながら、先づ第一に感服したのは、氏の戯曲が何人にもまして、西洋近代劇の伝統を

文字遣い

新字旧仮名

初出

「東京日日新聞」1937(昭和12)年6月16日

底本

  • 岸田國士全集23
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年12月7日