なかむら・さかなかにくんのこと
中村・阪中二君のこと

冒頭文

中村正常君は戯曲家として世間の一部に名前を知られてゐる人である。僕は同君の作品を殆どみな読んだが、その世界の狭さには一寸驚いた。狭いだけならそんなに驚かないが、その狭い世界をはつきり掴んでゐるのに驚いた。どの作品も、悉く「ある青年がある少女を愛してゐるが、その少女は別に許婚なり恋人なりがあり、その青年をそばへ寄せつけておきながら、その青年の悩みを募らせることしか考へず、青年も亦恋の勝利者たることは

文字遣い

新字旧仮名

初出

「悲劇喜劇 創刊号」1928(昭和3)年10月1日

底本

  • 岸田國士全集21
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年7月9日