かいぎてきせんげん
懐疑的宣言

冒頭文

この二三年来、私の読んだもののうちで、ジユウル・ルナアルの日記ほど、私の心を動かしたものはない。 私は決して、彼を所謂「偉大な作家」だと思つてはゐなかつた。しかし、これほどまでに「人間の小ささ」を悉く具へてゐる男だとも思はなかつた。私はこの日記を繙くに当つて、忽ち眉を寄せ、脇の下に汗をさへかいた。その偏狭さ、傲慢さ、嫉妬深さ、名声への卑俗な執着、病的なエゴイズム……彼は、誠に、憫笑に値す

文字遣い

新字旧仮名

初出

「読売新聞」1930(昭和5)年2月15日

底本

  • 岸田國士全集21
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年7月9日