げきだんあんこくのべん
劇壇暗黒の弁

冒頭文

演劇の不振といふことを、近頃よく世間では問題にするが、それが悦ぶべきことか悲しむべきことかといふ議論になると、私には、殆んど見当がつかないと云つていい。 一国の一時代に於ける演劇が、特に盛んであつたところで、少しも悦ぶべきことでなく、殊にその盛んでありやうによつては、寧ろ厄介千万だからである。 興行者乃至俳優の側から云へば、劇場に見物が殺到する世の中を望んでゐるに違ひないし、そ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十八年第七号」1931(昭和6)年7月1日

底本

  • 岸田國士全集21
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年7月9日