ごじつものがたり
後日譚

冒頭文

私が文芸春秋社特派員として北支へ行つたのは去年の十月であつた。往復をいれてわづか三週間といふ短い旅であつたが、当時、京漢線方面では、彰徳の攻撃がはじまる前であり、娘子関がまだ落ちず、保定、定県附近には敗残兵が頻々と出没して油断のならぬ頃であつた。石家荘で旧友の飛行部隊長を訪ねたことは「北支物情」のなかへも書いたが、その後、大佐から端書が来て、それにはこんなことが書いてあつた。 「……部下のも

文字遣い

新字旧仮名

初出

「話 第六巻第八号(臨時増刊支那事変一年史)」1938(昭和13)年7月10日

底本

  • 岸田國士全集24
  • 岩波書店
  • 1991(平成3)年3月8日