一 東京の近郊—— 雑木林を背にしたヴイラのテラス 老婦人 収 アンリエツト 弘 秋の午後—— 長椅子が二つ、その一方に老婦人、もう一方に青年が倚りかかつてゐる。それが毎日の習慣になつてでもゐるらしく、二人とも、極めて自然に、ゆつたりとした落ちつきを見せて、静かに読書をしてゐる。 老婦人は、純日本式の不断着、ただ、肩から無造作に投げかけた毛皮の